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おとなになるってことは
「ねぇねぇ、ここらへんに森があったよね」

またその話?ユリが唇を斜めに曲げる。

「今日はさ、ひさしぶりにイッコも一緒なんだからさ
 そういう昔話なしにしない」

なになに、おもしろそうじゃない。私にも教えてよ。
と、イッコ。

高校を卒業し、2年のめ夏休み。
私は地元の短大、ユリも近くの専門学校、イッコちゃんは家を離れて
遠くの大学へ行っていた。 

「このあいだから何度も聞かされててさ」
ユリはまだ不満そうに、イッコをつついている。

小さい頃にね、ほら、小学校の遠足かなんかで、ここらへんに来たことあるじゃない。
そうだっけ。とユリ。
あ、なんとなーく思い出した。とイッコ。

「イッコちゃん、センチメンタルノンコにそんな付き合わなくていいから、さ、こっち」

ユリが強引にイッコの腕を取る。
私たちは夏の地下街に一気に滑り込む。


*-*-*-*-*-*-*


私だって覚えてはいなかったんだ。
その建物を見るまでは。
バイトの面接で来たときに、前にも来たことあると思ってしまった。
夏だというのに、ひんやりしたロビーが日本風だったからだろうか。
ドームのような形のグレーの外観からは想像もつかなかった。
お月さまのような丸窓が、外からは何個か見えたのだけど、中に入るとそんな窓は
どこの壁にも見当たらない。正面がすべてガラス窓になっていて、その向うには庭が広がっている。
有名な雪舟さんのお庭です。
受け付けてくれた係りのお姉さんがそう言った。
庭に張り出した茶室で接待の方をお連れするバイトだった。


*-*-*-*-*-*-*

「それで」

ハリネズミだったんだよ。振り返ったら。

「だから、もう聞かなくていいよ」
ユリはほんとに怒り出しそうだった。
「そのハリネズミがノンコに会いに来たんだってーーー」
聞かされたくないから、ユリが説明する。
だけど、その語尾、ながすぎだろ。


*-*-*-*-*-*-*

「こんにちは」とハリネズミは言った。
いや、ハリネズミのような男が言った。

青い畳の匂いがする部屋の戸を開くと、ハリネズミはちょっとだけ毛を逆立てたように見えた。
「ああ、いい匂いだ」
まったく、土と木の匂いがするね。
こんなところにもちゃんと匂いがあるなんて。
私を見てにこっと笑った。

前に、会ったことあるかな。と考えたけどわからなかった。
私の倍の年齢差がある男の人と、これまで出会ったこと、あったっけ。


「こちらにはアイスクリームがあると聞いてきたんです」
はい、ございます。
私は研修で教えられたとおりのお返事をした。
「随分テイネイですね」
返事に困る。
「あなたは普段のままがいいと思いますよ。その服装も、あまり似合っているとは」
ハリネズミは言葉を詰まらせた。

誰もが同じ、みどりのグラデーションの着物だった。

「失礼。それは制服のようなものですね」
ハリネズミがまた毛を逆立てた。



*-*-*-*-*-*-*

森、だったんだと思う。
蝶を追いかけていて、はっと気付いたら、森だった。
木漏れ日に蝶がたくさん飛んでいて、とてもきれいだった。
しばらく見とれていると、目の前を何かが横切る。
うわっとしりもちをついたら、そいつは止った。
丸くて小さい目。背中にとげとげがたくさん。
そいつは、わたしに驚いたのかすぐに逃げて行ってしまった。
どうしよう。こんなところに来てしまった。
空を見上げると太陽がまぶしい。
見当をつけて、来た方向へ歩き始めたら、また、そいつが
ととと、と私の前を横切る。
そしていなくなる。
ハリネズミ、と思った。テレビでみたことある。
似てるけど、細くて、頭のほうばかり針が渦を巻いて、もこもこしてる。
笑うと、後ろに立って、私に迫ってくる。
仕方なく、後ろからハリネズミに押されるようにして、前に歩き出す。
森はどんどん深くなってくるようだった。
ちょっと不安になる。
鼻歌のようなのが聞こえる。ちらりと見ると、ハリネズミがあごを突き出して、何か歌っている。
知らないふりしてどんどん歩くと、ふと、森が開けた。
向うの建物からユリが手を振っている。


*-*-*-*-*-*-*

だいたい、手を振ったとか、そんなこといくらでもあるしね。

「何か話せばよかったのに」
イッコが残念そうに、私の肩をたたく。

話はさ、しなかったんだけど、とっさに
ポケットにあった紙を渡したんだよね。
アイスの引換券、だったんだ。


そしたらさ、ハリネズミがアイスクリームの姿になったの。
うひゃー。イッコちゃん、喜ぶ。
全身ハリネズミなんだけどさ、頭のほうだけくるくるって、針が渦を巻いてるの。


*-*-*-*-*-*-*

お茶屋に来た、ハリネズミのような男は、帰り際に私に紙を握らせた。
まつぼっくりが積んである、クリスマスツリーのような絵が描いてあった。

急いで男のほうを見ると、なんだか背丈が小さくなっていた。

「きっと何かの引換券、だよ」
イッコちゃんは本気。

「終わり終わり。ほんと、その話もう終わりだからね」
ユリが先にたって歩き始める。

イッコちゃんは、その紙をきれいにたたんで、私に渡すと走り出す。

「待ってよー」
私もふたりのあとを追う。


ハリネズミに会わなかったら、と、時々思う。
私は森で、アイスクリームの引換券を使わないまま、大人になってしまうんだろうって。


*-*-*-*-*-*-*

文芸サイト Texpo というとこにアップしたお話です。
一週間で書こうという設定なのに、朝の一時間で書いてしまいました。
あほですね。
たぶんリンクですぐに飛べないと思うので、そのままこちらに転載しました。
Texpoのほうへも、興味のある方は是非行ってみてくださいね。
| おとなになるってことは | 07:11 | comments(0) | - | pookmark |

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