スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - | pookmark |
風の強い日
ココとフレミングとリアと、シュトとあたしと
半欠けの分度器なんだ
一生懸命測っても半分しかわからないよ。
半分で考えて行動して、あと半分は想像する。

フーシャの生まれたところは海岸沿いで
高いところで吹く風にはうっすらと白い文字が書いてあるんだって。
人が読める文字なの?
読めるわけないさ。
じゃあ誰が読むの。
神様、じゃないかな。
フーシャが高い山に登るのは、そこらあたりの話に寄るのだと思うけど
あたしは密かに、フーシャには分度器が必要なんだって思ってる。
リアの俊足でいつか、届くといいな。

山でまぐろが取れたらしいよ。
普段あまりしゃべらないフレミングが、フーシャのことを話していると
テーブルに気の早い虫たちがやってきている。
これからくだもの並べようと思っていたのが、どうしてわかるんだろうね。
わかるんじゃないよ。知っていたんだよ。ココが言う。
今日はみんなおしゃべりだね。
外で風が暴れてる。
木も建物も線路も一度に話し出す、こんな風の強い日。
魚はしゃべる代わりに飛んでしまうのさ。
話すことも飛ぶことも、どっちも遠くへ行けるけど
魚にとっては飛ぶほうが手っ取り早かったんだな。
シュトが両手を羽にして飛ぶまねをする。

魚に見えないよ。ってあたしが言うとシュトは嬉しそうに
鳥にしか見えないか。そうか、鳥だよなやっぱり。
部屋を一周してドアから出て行った。
鳥はわざわざドアから出るもんじゃないでしょ。
今シュトを悩ませているのは、やわらかな鉄板の音声解読なんだって。
風が強いとはかどるみたい。





| それよりたくさんのドライブ | 14:37 | comments(0) | - | pookmark |
あたしには神様がいない
困ったときはココに聞くことにしてる。

聞くといっても、ココはたいてい家にいないから、家にいないくらいはまだいいほうで
どこかにいる、ということからいないことがほとんど。
それでもココに聞いてしまうのは、それが私にとって最良の方法だと知っているから。

私が困っているときのシュトは全然困ってなんかいない。
びわの木の根元の水分が足りてるとか足りてないとか。
川の湾曲率から鮎の数量を割り出す。
そういうことがときどきシュトを困らせる。

リア、リア、分度器を持ってきてくれないか。
シュトが呼んでる。
先週の日曜日に、ミディ・マムはリアになった。
大事にしていたうずらを山に返した日だ。
もう子どもじゃいられない。

フレミングは朝からテレビにかじりついてる。
薄く焼いて、チーズを挟んだフランスパンと交互に。
4月から1ヵ月間、フーシャの食物を毎日山小屋まで運んだので、すっかり山の住人になってしまっていた。
ただいまのかわりに「まだ俺山にいるんだ」とフレミングは言った。
テレビとフランスパンに交互にかじりついているのは、たぶん、山を降りるためなんだろう。何かを具体的に遂行するために、フレミングは落とした「ミ」のことを思い出さない。フランスパンは白いお皿に3切れ、バスケットに2本。そろそろスープの鍋が音をたて始める。

ココ、
ココ
神様っているかしら。
大きな分度器を抱えて川に向かい走り出すリアの背中って、5月の昆虫のように果てしない。足はまったく地面についていないようだし、腕が休んでいないもの。草のきみどりと空の青が亀裂して、それを塞いでるリアの背中。

あたし神様はいないと思うんだ。



| それよりたくさんのドライブ | 10:07 | comments(6) | - | pookmark |
いぶの夜に
眠りこけてはいるけれど、フレミングはミを落とした。
二日前に、うっかりだった。

「トーキョーの空に落とした」
ココは言うけど、まだ生れてない。

ボストンバックの底、くしゃくしゃのタオル、眼鏡ケース、恐縮したTシャツ
どれも捜索とは全然別の顔をしている。

ベットに横になり、すぐに寝入った。
冬の扇風機みたいに夜が歌った。

「ひとり言として言ってる?」
分厚い毛布にくるまれて、まだトーキョートーキョーと言っている。
ココの突き出たくちびる。
パジャマのポッケに忍び込んでいるなら、出ておいで。

スポンジは半分焼きあがっていた。
あとは、時間のメモリをマイナスとプラスに合せるだけだよ。

クリスマスケーキには特別おいしい苺を飾ろう。
ココもきっと気に入ってくれる。
フレミングは寝返りをうった。
ブレインさんの牛小屋で牝牛のバルラが野原に揺れた。

| それよりたくさんのドライブ | 09:57 | comments(0) | - | pookmark |
それよりたくさんのドライブ
布団のなかから声がする。

「パン、焼いて」

ゆうべもその前もその前も遅い帰宅のシュトである。
ゆうべのそのまえは帰らなかった。

「パン、焼いて」

そのとき私は珈琲を飲んでいた。
隣でミディ・マムは焼けたばかりの食パンにバターを塗ったものを食べていた。
バターはほどよく溶けて、黄色と黄金色が混ざり合っていた。

シュトの声で、ミディ・マムは私のほうを見た。
目配せして、早く焼いてあげたら、と言っている。

私は咳払いをする。
たった今、深く椅子に腰掛けたところだった。
シュトの急なお願いに対応できないところに差し掛かっていた。

咳払い 2回め

「今、冬休みです」
「冬休み?」と返したのはミディ・マム。
 訂正する
「ほんのちょっとの冬休み」
 厳密な訂正。

冬休みだって、とつぶやくミディ・マムはほんの少し笑っていたかもしれない。
噂の張本人には「ほんのちょっと」がすごく頭に来るんだ。

「パン、」
シュトは私に食ってかかった。
でも、ちっとも怖くはないよ。
だってまだ布団から抜け出せないんだもの。

「まだ、焼けてない」
しらじらしく返事して、椅子を追いやらない。
シュトの沈黙にうがいぐすりを垂らすミディ・マム。
「焼いてない、でしょ」
焼いてない? きっと睨み返す。
がらがらがらがらがらがら。
ぺっ。

「マーム!!」
懇願が哀願に変わる、音声の長さ。
「なに?」
「焼いて」
もう、パンどころじゃないんだな。
なのに、つれないミディ・マムは
「焼けてない」と返事した。

まだ、クリスマスケーキも焼けてはいないはず。
いぶいぶの朝
寝息をたてている、フレングの部屋のドア。

| それよりたくさんのドライブ | 09:16 | comments(0) | - | pookmark |

CALENDAR

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< September 2017 >>

SPONSORED LINKS

SELECTED ENTRIES

CATEGORIES

ARCHIVES

RECENT COMMENT

ツイート

MOBILE

qrcode

LINKS

PROFILE

SEARCH